長崎県佐世保市で税理士事務所をしております西村浩太郎です。
事業所の皆様の日々の財務、労務から複雑な事案のご相談まで、ニーズに合った業務を行うように心がけています。 お気軽にご相談ください。
○借入金について
企業が事業を拡大していくうえで資金は大変重要です。
およそ今より少し背伸びをしなれれば事業は大きくなりません。
例えば営業車を購入して販売地域を拡大したり、機械装置や自社工場を建設して生産性を拡大させる。 季節商品を仕入れるためにお金が必要な場合もあるでしょう。
そのような時に企業はどのようにして資金を調達するでしょう。
上場企業は証券市場を通じて広く投資を募り、株主になってもらい資金を調達します。 これらのお金は、企業からみれば基本的には返済しないでよいお金です。(自己資本 資本金等)
それに比べて地域の大多数の中小企業は投資を募ることはできませんから、金融機関からお金を借りて資金を調達します。(他人資本 借入金)
中小企業にとって借入資金は成長の燃料になります。しかしそれは、いつまでたっても「いつかは返済しなければならない借入金」であり続けます。(例え忘れていても)そしてその借入金は、会社が廃業する時や事業譲渡、事業承継等様々な場面で大きな重荷になってきます。
例えば会社を廃業する場合には、借入金を完済しなければ連帯債務者や保証人、担保提供者がその責任をとらなければなりません。
会社を他人に売却する場合にも、会社に借入金がたくさんあれば容易に買い手は見つからないでしょうし、借入金に付いている社長の保証や担保ははずしてもらえるでしょうか。
社長が自分の子供さん方に会社を譲る場合に、「こんなに多くの借金を引き継がせて良いものだろうか」と考えないではいられません。
成長戦略は必要です。そのための金融機関へのアピールやノーハウも大切でしょう。企業の原則の中にゴーイングコンサーン(継続企業の原則)というものがあります。 確かに稀に100年以上続く企業も存在しますが、かたや企業の平均寿命は30年程度であるというような言われ方もします。
継続企業を前提にすれば、ある程度の借入金は常にあっても良いのかも知れません。
しかし時代の変化(科学技術の進歩、情報や交通インフラの発展、ライフスタイルの変化等々)により企業の業務に対する社会のニーズも変わります。
何十年経っても成長し続ける企業が理想ですが、普通の企業には、人間と同じように幼少期、成長期、成熟期、斜陽期というようなライフサイクルがあるようです。
成長期には起爆剤としての借入資金も必要です。 しかし、成熟期を超えた企業では、無借金経営やスローランディングも視野に入れておくことが、安心経営のために大切ではないかと考えています。
そこで借入金についてあらためてちょっと考えてみたいと思います。 (続く)
○大きく分けて
借入金には様々な種類や分類の仕方があるのでしょうがが、代表的なものとして手形借入と証書借入があります。
手形借入は借主が手形を差し入れて手形期限までお金を借りる方法です。
期限が来れば借りたお金は一括して、又は手形期日ごとに返済しなければなりません。 主に1年未満の短期的資金が必要な場合に利用されます。 手形借入は、「ちょっと借りる」というイメージなので、貸す側も借りる側も手続きが簡易、うまく利用できれば、つなぎ資金として有用です。
証書借入れは、金銭消費貸借契約を締結してお金を借りる方法です。
長い期間にわたり貸し借りをするのですから、貸す側は、より確実な債権保全をしておかなければなりません。 貸付の目的は、ほとんどの場合は担保価値のある資産の購入です。 通常は借主のほかに連帯債務者や保証人を付け、場合によっては、他の担保を提供してお金を借りて、毎月定額を分割して返済していきます。 借入期間は5年、10年~25年と長期がほとんどで、契約書に定めた期間は、金利(利率、変動又は固定)、返済方法が変更されることはありません。
会計(貸借対照表の表示)では、1年以内に返済しなければならない借入は「短期借入金」勘定として流動負債の部に表示され、それ以外の借入は「長期借入金」勘定として固定負債の部に表示します。
多くの手形借入は短期借入金に該当し、証書借入は長期借入金に該当します。 付け加えると証書借入のうち今後一年以内に返済する予定の部分については、「一年以内返済長期借入金」勘定として流動負債の部に表示することが推奨されますので、証書借入のうちの一部は、流動負債の部に表示する場合が多くなっています。 (続く)
さてそれでは短期借入金、長期借入金はどのような用途で利用されるのでしょうか。
短期借入金は1年以内に返済しなければならない借金なので、運転資金として利用されます。
例えば、建設業でちょっと規模が大きくて工期が長い工事を請負ったとします。 工期が1年、工事代金は工期半ばで半分、完成後に残金を入金するとする契約であったとすれば、材料費、外注費、人件費等の工事原価はどうしても先行して支払わなければなりません。 手持資金が必要です。 もし手持資金に余裕がなければ、工事が終わり債権を回収するまでの期間は、工事原価に相当する資金を借入金で賄って、資金が不足しないようにしなければなりません。(注1)
また例えば、季節商品を販売する場合は、次のシーズンの商品をシーズンの始まる数か月前から選定して仕入れるとすれば、その商品が売れてお金に変わるまでには相当の期間がかかります。 このような時にも仕入代金の支払いと商品が売れて入金されるまでの期間のタイムラグを借入金で賄ったりします。 季節製品を製造販売する場合も同じです。(注2)
短期的な目的で借入をした場合は、目的が達成したら(先の例ではその工事が終了し工事代金の入金を受けた後、また季節商品を売り切って売上代金の入金後)いったん返済することを推奨します。 そうしてその短期的な商売で利益が出たのか否かをきちんと把握するべきでしょう。 借入金を清算しないでそのまま借入金の借り換えを続けていると、借入れ運転資金が当たり前になって、だんだん短期借入金が増えてくる傾向が出てくることがあります。 気づいたら何か月ごとに書き換えを(お願い)しなければならない手形借入金が「こんなに増えていた!?」ということになるかも知れません。
(注1、注2) 仕入れ業者や外注先に支払手形を振り出して資金不足を補う場合もありますが、金融機関からの手形借入金は金融取引であるという意味では同じものです。
(続く)
「不測の事態に備えて、借れるときに借りておく」という話を聞くことがあります。
しかし、手元に預金残高があると不測の事態のハードルが下がってしまい、支払いも大きくなりがちです。 いつの間にか資金は前の状態に戻って、借入金だけが残っているということになる場合も多いように思います。 以上のような傾向から、必要のない資金を借りておくことは、あまりお勧めするものではありません。 必要になった時に借りればよろしい。 もし借りておきたいのであれば、目的が「不測の事態に備える為」なのであれば、定期預金等の別段資金として区分し、可視化しておいた方がいいでしょう。
売上が増え続けて事業が拡大していく途上の企業では、「売上が増えているからお金が足りない」という傾向が出てくる場合がよくあります。
なぜならば、現金商売以外の企業では、手持商品や製品が売れて売掛金に変わり、売掛金が手形に変わり、手形が現金に変わるまでの期間より、仕入代金や製造原価の支払いが先に来るからです。 ちょっと逆説的な感じがしますが、売上が増えれば増えるほど仕入も原価も増えていきますから余計にお金は足りなくなります。 そのような傾向は売上の増加が高止まりして安定し、入金の方が追いついてくると、その後は資金繰りも落ち着きます。
このような場合にも短期借入金は利用されます。
売上高の増加が落ち着いて来れば、短期借入金を減らしていく事に注意しましょう。
運転資金を借りている場合には、売掛債権の貸倒れや不良在庫には特に注意をしましょう。
長期借入金は長期間にわたって分割して返済していけばよい借入金ですので、車、機械装置、不動産等、すぐには資金化できない固定資産等を購入する時に用います。
固定資産はこれらを使用することによって売上を増加させ、又は効率化等により経費を削減して利益を増加させます。この利益の増加分で借りたお金を返していきます。 計画通りに利益を増加することが出来なければ借入金の返済資金が捻出できないかも知れません。 その場合には資産を早期に売却して資金に戻して借入金を返済してしまわなければならない場合もあります。
そのため「この設備投資が想定通り利益を生まなかった場合にも、設備投資前の現状利益だけで、新たな借入金の返済に目途がつけられるかどうか」も事前に慎重に検討しておくべきでしょう。
長期借入金勘定の内訳を把握しているでしょうか? その借入が何の資産を購入するためのものであったか把握できているでしょうか? その資産を処分した資金で借入金の返済ができるでしょうか? そのような確認をされることをお勧めします。
車や機械装置、建物等は、買った時の金額で、例えば5年経っても10年経っても処分できるというわけではありません。 減耗、陳腐化等により価値は減少していきます。 このような資産を減価償却資産といいますが、これらの資産は会計上の処理により毎年資産価値の減価を合理的に見積もって貸借対照表の帳簿価格を減らしていきます。 帳簿価格と処分価格は違いますが、一つの目安にはなりますので、先ずは固定資産勘定と長期借入金勘定のバランスに注意されるとよいでしょう。
また新品の機械も車も、買ったとたんに中古品となり処分価値は新品に比べて何割か下落します。 不動産も将来の処分価値は流動的ですから、借入金残高に見合う担保資産にしておくためには、購入資金全額を借入に頼らず、何割かを自己資金にしておくことも大切です。 多くの借入実務においては、何割か自己資金を使うことが借入の条件として金融機関から求められることも多いでしょう。
(続く)
短期借入金を使って固定資産を購入してはいけません。 用途が違いますので資金繰りを悪化させる要因になります。
売上が増えて事業が拡大途上の場合には、前回述べたように資金不足が続く場合がありますから、運転資金として、2~3年で返済をする長期借入金を利用することは間違いとはいえません。
但し、今まで6か月とか1年で書き換えをしていた手形借入金をまとめて長期借入に組替えると、直ちに毎月の返済が始まり、必要資金が増えてしまいます。 資金繰りを悪化させる場合があるので注意が必要です。
赤字(損失)を補てんするために新たに借入をするのは、将来に余程利益が上げられる見込みがない限りは推奨しません。 借入金に見合いの資産を買うわけではありませんので返済の担保がないし、利益による返済のめどもたたないからです。 先ずは損益構造を見直し利益を確保できる方策を立ててからにするべきでしょう。
しかし、例えば1週間後の手形を決済する資金が無かったら・・・それでも「赤字借入はしてはいけない」というのであれば、実務的な話しとは言えません。 何とかお金を借りてでも決済をしないと不渡りを出して、資金繰りが壊れてしまします。
でも、損益の改善がされない限り、その次や、そのまた次の手形期日には、よっぽど幸運なことがない限り、やがては借入もできなくなる事は考えておかなければなりません。
(続く)
借入金の1年間の返済余力を見る簡易な方法として以下の算式をご紹介します。
【減価償却費計上額+税引後当期利益≧借入金返済予定額】
この算式は緻密なものではありませんが、期首と期末の資産負債の各勘定科目残高に大きな変動がなければ、簡易なキャッシュフローをみるために利用することができると考えます。 この簡易なキャッシュフローが借入金の1年間の返済予定額より少ないと、返済計画に無理があるということになります。
無理がある場合には、以下のような症状が現れてくることが考えられます。
1.借入金返済のために新たな借入をすることになります。 借入金は実質的には減りません。 新たな借入先は金融機関からであったり、オーナー個人からだったりします。
2.期首の預貯金残高が減ってきます。 手持ち資金に相当余裕があれば1~2年は平穏でしょうが、長く続くと資金繰りが出来なくなります。
3.棚卸資産が減ってきます。 デッドストックの処分であればいいのですが、動いている在庫が減れば、やがて売上が減ってきます。
4.買掛金や経費未払金の支払いサイトが長くせざるを得なくなってきます。 信用を損なえば仕入や営業そのものができなくなります。 税金(消費税や固定資産税等)や社会保険料の遅延が出てくると、公的金融機関からの借入が難しくなり、資金繰りが大変厳しいものとなってきます。
また【税引後当期利益=税引前当期利益×(1-実高税率)】とすれば、上の算式から、借入金を予定どおり返済していくための税引前当期利益は次のようになります。(注1)
例えば、年間300万円の借入金を返済しなければならない場合で、当期の減価償却償却可能額が200万円だとすれば
(300万円-200万円)÷(1-0.25(注2))=1,333,333円
フルに減価償却費を計上した後に税引前当期利益を140万円以上は計上しなければならない、言い換えれば減価償却費計上前で3,333,333円(=2,000,000円+1,333,333円)の利益を計上しなければならないということになります。
(注1)会計上の「利益」と税率を乗ずる計算の基礎となる税法上の「所得」の概念は異なるものですが、中小企業の場合は、実務上大差がない場合が多いので「税引前利益≒所得」としてお話ししています。
(注2) 所得が400万円以下の場合の法人税及び住民税の実効税率は25パーセント程度。
お金がないのに「利益が出ていると言うのはなぜか?」 そんな質問をよくされることがあります。
そのような傾向は借入金を返済している時には特に顕著に表れます。
利益の増加はお金の増加ではありません。(利益≠資金)
確かに有期事業、例えば1,000万円のお金を元手にして半年間だけ事業をして、すべてを清算してお金に変えてしまうのであれば、最後に1,500万円残っているのなら500万円の利益で、800万円しか残っていなければ200万円の損失です。
しかし通常は、事業は期間限定では行われません。
そこで1年以上継続している事業は1年ごとに区切り1年間の「損益(利益か損失か)」を計算します。
その場合にはお金の増減を損益の尺度には出来ません。 なぜならばお金は何にでも変わりやすいものだからです。
例えば利益が出そうだから車や次に売る商品を買ってしまえば利益が消える? 利益が減ることはありません。 お金という資産が車や商品といった資産に変わるだけです。
例えば、期末にお金を借りたために前年より資金を持っていたとしても、それは利益ではありません。借りたお金があるだけです。
また逆に期末に少しお金が残るからといって以前借りていたお金を返したとしても利益を減らすことにはなりません。以前に借りたお金を返しただけです。
お金は他のどのような資産にも変わりますし、買掛金や未払金、借入金等の返済手段にもなります。 お金の増減は年度毎の損益計算の根拠ではないのです。
会社が解散して清算する場合には、会社の全ての財産債務を清算して、残った資金(残余財産)が解散時の純資産(資本金等の額と解散時までの利益の累積額(利益積立金))を超える場合にのみ、その差額を課税所得として法人税等を課していました。 これは、最初に述べた「最後には残ったお金が利益」という考えにそったものであり、分かりやすいものでした。(注1)
(注1)平成22年10月1日以降の解散は、清算が終わる最後まで損益計算をして、最後に清算しきれない債務が残った場合に過去の累積赤字で相殺するという所得計算に変わっています。
お金の増加が利益ではないとすれば、何をもって利益とするのでしょう。
会計では資金ではなく純資産の増減をもって損益計算の裏付けとしています。
おおざっぱに言えば、いろいろな物に形を変えている資産を全て資金に戻して(例えば売掛金を回収して、減価償却資産や不動産を処分して資金に戻し)、払わなければならない全ての債務を返済した後に残る資金(=純資産)が期首に比べて増えていれば「利益」であり、減っていれば「損失」なのです。
純資産とは総資産と総負債の差額です。
【純資産=総資産-総負債】
【利益=期末純資産>期首純資産】
※正式には「総資産-総負債=純資産」「純資産=資本+利益」ですが、資本金等は株主から拠出された資金であり、ここでは不変であると仮定し、話しを簡単にするため「純資産の増加≒利益」として話を進めます。
総資産には現金預金をはじめとして売掛金、受取手形等の営業債権や棚卸資産、営業外債権、固定資産、投資資産等々すべての資産が入り、総負債には営業債務の他、預り金、前受金、借入金等々全ての負債が含まれます。
資産の構成要素である資金の増減は、継続する企業の一会計年度においては利益の増減とは直接は関係ありません。
純資産の増加が利益なのです。
純資産が増加するパターンとして以下があります。
パターン1.総資産の増加 総負債不変
パターン2.総資産不変 総負債減少
パターン3.総資産増加>総負債増加
パターン4.総資産減少<総負債減少
パターン5.総資産増加 総負債減少
資産の中身がどのように変化しようと、利益の増減に関係しません。上のいずれかに該当すれば、お金は全然増えていなくても(お金が減っていたとしても)利益となります。
前回、利益が出ている(純資産が増加する)パーターンについて述べましたが、それをイメージ図にすると以下のようになります。
継続する毎年度においては、利益を出すということと、資金が増えたということは全くの別物だと思わなければなりません。
日々の事業運営に必要なのは「お金」ですし、最終的に頼みの綱も「お金」です。しかしお金は、借りることができればつくることができます。 でも借りたものは、いつかは「お金」で返さなければなりません。
長期的に会社の財政状態を良くしていくためには「利益」を出して総資産に占める純資産の割合を増やしていく事が必要です。 別の言い方をすると、会社財産は、全て返さなければならないお金と返さないでよいお金からなっていて、その返さないで良い部分の割合を増やす事が利益を出す事であり財務体質を良くすることです。
ただ利益を出す事だけで、現在の資金繰りが改善されるわけではありません。 例えば総資産にうちに売掛金や在庫、不動産が極端に多ければお金は不足しがちになります。 また返さなければならないお金(負債)のうちにすぐ返さなければならないお金が多ければ、これもまたお金は不足しがちになります。
こちらは財務内容の見直しの問題です。 例えば借入金が多いから有休不動産を処分して一括返済するであるとか、短期返済の借入金を長期返済の借入金に切替えるとか、売掛金が多いから回収して運転資金を確保す等々というのは、利益とは関係なしにおこなう財務バランスの見直しです。 運転資金が不足するから当分の間、短期借入金でまかなうというのもまた財務バランスの見直しの方法の一つです。
利益を出すためには、損益計算書を検討し 利益を出すための方策を実行しなければなりません。 例えば売上を増加させるとか、粗利益率を向上させる、経費を削減するとかという問題でありその具体策は○○○という利益計画です。 結果として純資産が増加したとしても(利益が出ても)、その中身をどのような状態にするか(例えば資金として保有しておくか、設備投資をするか、借金を減らすか等々)は財務内容の見直しの問題(貸借対照表の構成要素をどのような状態にするかの問題)として利益計画とは別に考えなければなりません。
言葉でいうのは簡単ですが、利益計画にしろ、財務バランスの見直しにしても、今までのルールや約束事を大胆に見直ししなければならない事ですから、実現するのは容易なことではありません。
話しが少し横道にそれましたが、借入金は、それを返済するにあたり、返済額が【減価償却費計上額+税引き後利益】の範囲を超えていれば、その不足相当額だけ減価償却資産以外の何らかの資産が減少するか、その借入金以外の他の負債が増加します。借入金を約束どおり減らしていくためには、先ずは、「返済額<【減価償却費計上額+税引き後利益】」の状態である事が肝要だと考えます。
経営者であれば、事業で利益をあげることを望まない方はいらっしゃいません。 ただ税金をたくさん納めることを望まれる方もそう多くはないようです。 納税をするくらいならその分で借金を返したい、給料を上げてあげたい、設備投資もしたいと思うのは人情です。
しかし借入金を返済していくためには利益を出さなければなりません。(注1) そして利益(※2)を出して納税をしない方法はありません。 とすれば借入金を減らしていくためには利益を上げ、必然的に納税もしなければならないということになります(※3)。
保険や特別償却制度を使った節税(というか課税の先延ばし策ですが)の話しを良く耳にされると思いますが、それらはいずれもキャッシュを必要とするノーハウなので、借入金の残高を減らすことを最優先課題とするのであれば、節税対策に使える資金は限られます。 およそ【減価償却費+節税前の税引き後利益-借入金年間返済予定額】の範囲内となるでしょう。
しかし逆に借入金が多い場合には、オーナー経営者の万が一の場合に備えたリスク管理のために、保険に加入しておくことを優先する場合もあると思います。 将来の退職金の積立をしながら当期の税金をとりあえず少なくすることが出来るのであれば、それも有意義です。 また借入金の返済よりも設備投資を優先しなければならない場合もあるでしょうし、結果として特別償却が出来る場合もあります。
何に優先して資金を使うか(例えば借入金の返済か保険か、設備投資か等々)は経営者の方々の経営判断に係わる事だと考えます。
(※1)補足
【減価償却費計上額+税引後当期利益≧借入金返済予定額】
「年間減価償却費>年間借入金返済予定額」の場合は、当期利益は0円でも、又当期利益がマイナスの場合は「年間減価償却費-当期損失>年間借入金返済予定額」であれば、他の資産負債に大きな変動がない限り借入金返済は可能であると考えます。 そのような意味では、「借入金の返済予定額≒減価償却費」の状態である方が、利益と資金が近い感覚で経営が出来そうです。
ただ、法定耐用年数が長い資産を購入すると、例えば鉄骨や鉄筋コンクリート造建物等は償却期間が30年超となり、借入金の返済期間よりもだいぶ長くなるため、「年間減価償却費<年間借入金返済予定額」となってしまい、より多くの利益を上げなければならなくなるようです。 とどのつまり税金もたくさん納めなければ借金も減らない体質になりやすくなります。
私個人的には、中小企業の建物の耐用年数は、25年程度を上限とする特例があってもいいんじゃないかと思います。
(※2)会計上の利益と税金を計算する場合の基礎となる「所得」は別の概念ですが、話しを簡単にするため「利益」という言葉で話しをしています。
(※3)補足
中小企業においては、前9年以内(平成20年3月31日以前に終了した年度は7年)に生じた損失(≒欠損金)が残っている場合は、当年の利益(≒所得)と損益通算しそれでも残った利益(≒所得)に対して法人税を計算するという制度があります。 そのため単年度で利益が出たとしても前9年以内に発生した損失が利益と相殺されず残っていれば税金を払わないで良い場合があります。 そのような意味では、前9年以内に減少した純資産を元の状態に戻すまでの利益については法人税が課税されません。
同族企業の役員給与は、お手盛りになりがちという批判を耳にすることがあります。
しかしオーナー経営者の皆様は、会社を設立する時に資本金を拠出し、借入をする時は個人保証をし、また個人財産を担保に入れて会社経営をされています。 ひとたび会社が倒産でもすれば、出資金は当然のことながら、個人財産の全てを失う危険に身を置きながら、全精力を傾けて経営をされています。
もう一つの理由として、法人の利益に対して課される法人税等と、その利益を役員給与として支払った場合(結果として法人の利益は減少)に、役員個人の給与所得に課される所得税等との間の税負担率の差があります。あるレベルまでは役員給与を増やすことにより増加する個人の所得税より、減る法人税が多くなることから、例えばオーナー一人だけが株主であるような会社では、法人の財産は全てオーナ個人の財産であるとも考えられ、法人と個人を一体と見た場合に全体として税負担を少なくすることにもなる場合があることが、役員給与が大きくなる傾向の一因にもなっていると思われます。(注1)
これらの事は、役員給与が不相当に高額にならない限りは一概に否定できることではありません。 ただし、法人の側から見れば、会社に利益を残さないわけですからいつも資金的に余裕のない経営になります。 借入金の返済をしていかなければならない場面では、返済原資が不足し、不足する分だけ期首に所有していた預貯金やその他の資産が減少したり、借入金を約定どおり返済するために新たな借入をおこさなければならなくなります。 その新たな借入は金融機関であったり、金融機関での融資が難しくなってくると社長借入金だったりしてきます。
企業の決算書に多額の社長借入金がある原因は、上記のような理由で増えている事が多いようです。
とすれば、社長は受取った給料でも、会社の「いざ」と言う時のためにしっかり貯金しておかなければなりません。 しかし一度懐に入ったお金は、いろいろな事情によりそれほど残っていない事も多いようです。 当然のことですが、たとえ法人税で払うよりは低額であったとしても、けして少なくはない税金や社会保険料を個人で払うことになります。
社長個人の給料に課せられる所得税等は累進税率なので、所得が増えれば税負担も増えます。 会社の拡大に伴い役員給与も増やし続けて、もはや『社長の給料を増やすより、会社で利益を計上して法人税を払った方が税負担が少なくてすむ』いうレベルに達するまで会社が順調に成長するのが理想的でしょう。 しかしそこまでに至らない場合であっても、借入金の返済が多い場合は、長い目で見て会社が独立独歩で生きていくために、早めに役員給料を下げて、会社で利益を出す方が良いのではないかと考えることが多くなっています。
(注1)最近の税制改正では、これらの調整を制限するかのように個人の所得税の最高税率を上げたり、給与所得控除額に上限を定めるような改正がなされています。 逆に法人税の方は税率が下がっています。 個人の給料は税金が天引きされて振り込まれるのに対して、法人税は、申告時にまとめて税金を納付しなければならないので多額になる印象が残るかもしれませんが、法人個人間の税負担率の差異は少なくなりつつあります。
最後に、
それでは増えてしまった借入金の返済が多額になり、にもかかわらず思うように利益が出ない状態に陥ってしまい、【減価償却費計上額+税引き後当期利益<借入金返済予定額】が極端になった場合にはどうしたらよいのでしょう。
残念ながら特効薬はありません。
オーナーが相当の資産家で、自らの個人財産を処分して、会社の借金を全て肩代わりできれば別でしょうが、なかなかそうはいきません。
臨時的な対策として以下のような事が考えられます。
1.回収が遅れている売掛金の回収を行う。
2.不良在庫、過剰在庫を処分する。
3.資産(例えば不動産、機械装置、投資資産等)を処分する。
4.オーナー社長からお金を借りる(そうせざるを得なくなる)
但しこれらはいずれも一時的なものであり、上記のような対策を実行してもなお借入金が残り、借入金の返済計画と利益が見合っていない状態が続く場合は、金融機関とよく相談し、信頼を損ねないように利益を増やす経営努力を重ねなければなりません。 そして少しずつでも借入金残高を減らしていくしかないのではないでしょうか。
文章で書くのは簡単ですが、成人病と同じように一度このような状態に陥ったら、もうなかなか元には戻りませんので、先ずはそうならないような経営を常日頃から心がける事が肝要であると思います。
色々と書き連ねましたが、現実の経営課題は単線的なものではありません。 勿論、借入金を返す事だけが経営目的ではありません。 『他の資産負債に大きな変動がないとすれば、借入金を減らすためには・・・・云々』と前提条件を付して色々な考え方を説明しましたが、実際には他の資産負債も大きく変動しながら日々の経営は動いています。 多くの場合は、多少、借入金の返済が予定通りに進まなくても、いくつもの経営課題をバランスよく改善していかなければならない事の方が多いでしょう。
会社の将来像と借入金の着地点も見据えつつ、考え方として以上のようなことを頭の隅にでも残していただいて、なにかしら皆様の経営のお役にたてれば幸いです。
終わり