長崎県佐世保市で税理士事務所をしております西村浩太郎です。
事業所の皆様の日々の財務、労務から複雑な事案のご相談まで、ニーズに合った業務を行うように心がけています。 お気軽にご相談ください。
財務諸表の主要な報告書は、貸借対照表と損益計算書です。
貸借対照表は、その時々の会社の財政状態を表す報告書(資産(財産)目録、債務明細)であり、損益計算書は、貸借対照表がそのような結果になった原因(経営成績)を表す報告書です。
そのような意味で損益計算者は理由であり、貸借対照表は実在する財産、借金そのものです。
原因を良くしなければ結果は改善しませんが、先ず会社の財政状態(会社にどのような財産がどれだけあるか、財産で借金を賄えるか等)を経営者の皆様が正しく把握することが大切であると考えます。
語彙の正確性と学問上の緻密さは少し割愛して、できるだけわかりやすく貸借対照表を説明したいと思います。
①当座比率は少なくとも100%を超えていますか?
②流動比率は少なくとも120%を超えていますか?
③確定債務は全て計上されていますか?
④長期借入金に見合う固定資産(主に不動産等の換金価値の高い資産)を所有していますか?
⑤不良債権、不良棚卸はありませんか?
関係者貸付金の回収に問題はありませんか?
固定資産(減価償却資産、土地、投資資産等)は現在価値を反映していますか?
⑥これらを踏まえて、会社の資産で債務の全てを返済可能ですか?
財務安全性の高い会社作りの基本だと考えます。
貸借対照表は表の真ん中を縦に割って、向かって左側を借方(かりかた)、右側を貸方(かしかた)といいます。借方は、「かり」の「り」のはらいが左を向いているから「借方」、貸方は「かし」の「し」のはらいが右を向いているから「貸方」と覚えると覚えやすいでしょう。 (図1)
貸方は資金の調達を表します。 調達は他人から調達した資金を「他人資本」といい、株主から調達した資金や会社が事業活動により蓄えた利益等で返済不要の資金を「自己資本」といいます。
「他人資本」の代表的なものとして借入金がありますが、買掛金や未払金は、商品や役務の提供を受けたにもかかわらずまだ代金を払っていないという意味ですが、代金を払う相手とお金を借りている相手が同じというだけで将来返済しなければならない借金には変わりありません。支払手形、預り金、前受金も全て広い意味で返済しなければならない借金です。 (図2)
「他人資本」は、1年以内に返済しなければならない資金を「流動負債」という括りで表示し、1年を超えて返済していく資金を「固定負債」という括りで表示します。(ワンイヤールール)
「自己資本」は、株主から拠出された資金を「資本金」「資本剰余金」という括りで表示し、事業活動により会社が増やした部分を「利益剰余金」という括りで表示します。
「資本金」「資本剰余金」は原則として株主に返済する必要のない資金です。
「利益剰余金」は会社が増やした財産なので、配当をしない限り誰にも返済する必要はありません。(配当をしないと他人からの新たな出資は望めないでしょうが)
他人から調達して返済しなければならない資金(他人資本)と返済する必要のない資金(自己資本)を原資として、借方に『諸々の財産をどのように所有しているか(運用)』という読み方をします。 (図3)
借方は「資産」と表示し、大きく分けて、「流動資産」「固定資産」「繰延資産」に区分されます。 (図4)
「流動資産」は、現金から始まり、当座預金、普通預金、定期積金、定期預金、受取手形、売掛金、棚卸資産・・・等々と続きます。
これらは性質がお金に近い順に並べてあります。
例えば、商品は、掛けで販売すれば先ず売掛金になり、後日現金預金として回収されるか、一部は支払いを約束する手形に代わり、期日になると預金になり、最終的には現金になります。
預金は、満期まで拘束される定期預金より普通預金、当座預金は支払い手段として現金の代わりに利用されますので、より現金に近い性質を持っています。
「流動資産」のうち現金から売掛金までを現金により性質が近いものとして「当座資産」と表します。 並べる順番にも意味があるのです。
「負債」はワンイヤールールで「流動負債」と「固定負債」に分けましたが、「資産」も1年以内に資金化できる資産を「流動資産」とし、それ以外の資産を「固定資産」以下の部に表示します。
「固定資産」は、建物、機械装置、工具、器具備品、土地等を「有形固定資産」といい、特許権等で物は存在しないけど財産的価値のある権利などを「無形固定資産」、さらに会社の本業以外の投資有価証券や貸付金などは「投資その他の資産」という括りで表します。
投資有価証券等が「有形固定資産」より下部に表示されるのは、それが本業以外の営業外の損益に係るものだからという理解で良いでしょう。
「繰延資産」とは期間損益計算をより正確に計算するために便宜的に資産に計上しているものであり財産価値はありません。 そこで表の一番下に表示します。 (図5)
『会社が資金をどのような形で調達し、それをどのように運用し、今現在どのような財産として保有するか』を見るのが貸借対照表ですが、この「流動負債」「固定負債」「自己資本」と「当座資産」「流動資産」「固定資産」のバランスが、会社の財務健全性を見るうえで重要になります。 (図6)
以下では良く使われる4つの指標をご紹介します。
流動比率は、短期で返済しなければならない借金(流動負債)に対して、短期で資金化できる財産(流動資産)をどれだけ保有しているかを見る指標です。
資金化できる財産が少なければ、当然に資金繰りが危ういということがわかります。
業種により多少の差異はあるでしょうが一般的には以下に示す割合で判断します。
180%超 優良
180%以下150%超 良好
150%以下120%超 普通
120%以下80%超 注意
80%以下 危険
当座比率は、流動負債に対して、すばやく資金化できる資産をどのぐらい保有しているかを見る指標です。 より機動的な資金繰り指標として有用です。
150%超 優良
150%以下120%超 良好
120%以下100%超 普通
100%以下50%超 注意
50%以下 危険
(注)消費税について税抜経理をしている場合には、流動負債から仮受消費税の額を差し引いた額を分母の額にしなければなりません。
固定長期適合率は、すぐには資金化できない資産(固定資産)とそもそも資産価値のない資産(繰延資産)が、長期で払えば良い借金(固定負債)と返さないでいい資金(自己資本)でどれだけまかなわれているかを見る指標です。
この指標は少ない方が良く、100%を超えていると短期的な借金を使ってすぐには資金化できない資産を保有していることになり、資金繰りを悪化させる要因になります。
(図11)
55%以下 優良
55%超77%以下 良好
77%超100%以下 普通
100%超125%以下 注意
125%超 危険
自己資本比率は、保有する全資産のうち何割が返さないでいい資金でまかなわれているかを見る指標です。
当然に比率が高い方が安全ということになります。
50%超 優良
50%以下30%超 良好
30%以下10%超 普通
10%以下0%超 注意
0%以下 危険
これらの指標は企業の安全性を見る指標として一般的なものなので、毎期健康診断の結果を見るようなつもりで確認されたらいいでしょう。
例えば「血圧は下が80以下で上が130以内に収まっているか」 云々と同じ感覚で眺めて、もし「注意」であれば何を改善すれば指標が好転するか・・・という具合に。
上記の4つの指標は重要ですが、大局的な視点として もう一つ「資産の合計>他人資本」をご紹介します。
毎決算期において、少なくとも会社が保有する資産の合計が他人資本を超えているか否かに注意をしなければなりません。 (図13)
会社が保有する資産が他人資本より少ないということは、万が一、突然会社を閉鎖しなければならなくなった時に会社が所有する財産を全て処分しても、借金を全部返せない状態になっているということを表します。(図14)
会社が倒産しても株式会社や有限会社は出資の範囲で責任を負うのみ(間接有限責任制)というのは建前ですが、オーナー株主=経営者である多くの会社では、ほとんどの場合 経営者の皆様が個人保証をしたり、個人の資産を担保に提供して、お金を借りています。
会社の倒産は(倒産しないまでも会社を閉めるときに資本が欠損していれば)、個人財産まで失ってしまう危険性があります。
このような視点で毎決算期に貸借対照表を見て、現状認識をされることをお勧めします。
但し、中小零細企業では、労力やコストの面で大企業が行うような厳格な決算はなされず、ほとんどの場合は税法基準による会計処理がなされているため、そのような判断をする上では考慮すべき事項があります。
資産は減価償却資産を除いて、全て原則として買った時の価格(取得価額)で表示されています。
そのため買った時の価値と現在の価値が大きく違う場合には、現在価値に換算し直してみなければなりません。
例えば土地は、バブルの時期に購入したものであれば、現在処分するとすれば30~40%程度でしか売れないかもしれません。逆に息の長い会社が高度経済成長期前に購入した土地であれば、価値は帳簿価格の何倍にもなっているかもしれません。
株式などの有価証券はもっと乱高下します。
減価償却資産は毎期きちんと償却をしているでしょか。
もし償却がなされていなければ、中古資産としての現在価値よりだいぶ大きい金額で貸借対照表に記載されているかもしれません。
例えば10年前に500万円で購入した車が、10年間全然償却されず500万円のまま貸借対照表に記載されているとしたら・・・実際の価値は? 下取り価格はせいぜい10万円かも知れません。 「500万円で売れる車を持っている」と、貸借対照表をそのまま鵜呑みに安心するわけにはいきません。
「今処分するとしたらいくらぐらい」という視点で見直してみる必要があるでしょう。
売掛金に不良債権がないでしょうか? 貸付金等で回収が危ぶまれる債権はないでしょうか? 回収リスクのある債権に相当の貸倒引当金が計上されているでしょうか?
もし未処理のままになっていれば、これらの債権は回収可能額に値踏みしてみなければなりません。
商品、製品等の棚卸資産にデットストックがないでしょうか? 不良在庫や長期滞留在庫も現在価値に換算し直してください。
退職金の準備と節税対策の一環として、解約返戻率の高い保険で保険料の全額又は一部を損金に計上できる保険契約があります。
このタイプの保険に加入されている場合には、今解約したとすれば戻ってくるであろう返戻金が資産に正しく表示されていませんので、資産の額に返戻金を加えて判断してください。
上記以外の資産も、「貸借対照表には○○円で記載されているけれど、今処分するといくら?」というような視点は大切だと思います。
買掛金、未払金等の債務は決算期末時点で全てが網羅的計上されているでしょうか?
毎月継続的に発生する債務(例えば電気、水道、社会保険料等々)は、支払基準で計上していれば決算月分(翌月払い)が計上もれしてしまいます。 会社を閉めても翌月までは支払いをしなければならないその債務を認識していなければなりません。
通常のリース契約は、中途解約をしても 残リース料の支払いを免れません。 新しいリース取引の会計処理基準ではリース料を債務として計上することを求めていますが、既契約分や新規契約でも一部で従来の処理が認められているため、払うべきリース料の総額が正しく貸借対照表に表示されていません。 簿外リース債務にご注意ください。
債務としてはまだ成立していないけれど、将来支払いを約束したものがありませんか?
例えば退職金規定を定めている場合の将来の退職金等はその代表的なものです。
それらも会社を閉めるときの勘定に入れておかなければなりません。
借入金のうちのオーナーからの個人借入金等は、後回しの(最悪の場合は返してもらえない)お金と認識せざるをえないでしょう。
それでも、オーナー借入金を差引いた他人資本が資産の合計額の範囲内で収まれば、少なくとも会社に対する貸付金と会社株式以外のオーナーの財産は毀損しません。(図15)
オーナー借入金を差引いても他人資本が資産の合計額を超えるなら、その足りない額は保証人や担保提供者が負担しなければならなくなります。 (図16)
『それを個人財産で負担できるか???』 そのような現状認識が必要でしょう。
税法の処理基準と会計基準はスタンスを異にしています。
会計基準は債権者や株主、経営者自身の判断を誤らせないように、企業の財政状態と経営成績について楽観せず慎重な決算書を作ることが求められます。(保守主義の原則)
そのため負債は、確定債務は勿論の事、将来発生する可能性の高い費用まで見積計上することが求められ、資産は帳簿価額が現在価値を下回れば早期に損失処理をして現在の価値を表示するように求められます。
これに対して税法は課税所得計算の公平や処理の法的安定性を求めますので、債務の計上は原則として確定債務に限られ、資産の損金処理は、損失が確実なものに限り認めています。
イメージ的には費用や損失処理について、会計はアクセル、税法はブレーキとして作用しています。
会計基準に従って決算を組んで、利益が減ったり損失が増えたとしても、税金の計算は税法基準で行いますので、税法の基準に当てはまらない限りは税金が減ることはありません。
会計の結果と税金の計算は別の問題なのです。
大企業では、会計開示を優先して厳格な会計基準により決算書が作られ、税法と会計のかい離は複雑な法人税の申告調整により解決し、そして税効果会計を採用しています。
近年、中小企業にも会計基準を尊重した決算をすることが求められつつありますが、時間と労力、コストもかけられない多くの中小企業では、高度な会計処理や複雑な申告調整をしないで、税法の処理を優先して税法基準で会計処理もなされているのが実情です。
今後、大多数の中小企業でコンセンサスが得られる会計慣行が醸造されていくことが待たれるところです。
税法基準に拠った決算がなされるとしても、正しい現状認識をするために確定損失は速やかに処理し、確定債務は網羅的に計上するという会計処理の姿勢が必要であるということは言を要しません。 足りない部分は上記に述べた事などを加味して、貸借対照表をさらに実体的な現状認識の資料にしていただきたいと思います。
なにも難しい計算をする必要はありません。 先ずは貸借対照表の科目内訳書を見て、資産価値を値踏みしてみてください。そして借金の総額に見合っているかをざっくりとでも考えて見られることをお勧めいたします。